金属くず買取の本人確認|身分証と登記簿はなぜ必要?
金属の買取業者から、突然「身分証と登記事項証明書を出してください」と言われた。以前はそのまま売れていたのに、なぜ今になって必要なのでしょうか。理由は、2026年6月1日に施行された金属盗対策法です。現在は主に銅くずの買受業者に、売主の本人確認や取引記録の保存などが求められています。これは、これから始まるスクラップヤードの許可制とは別の制度です。
- 本人確認は2026年6月施行の金属盗対策法への対応
- 現在の対象は主として銅で構成される金属くず
- 将来のスクラップヤード許可制とは別制度

最初に見る図:二つの制度は別もの
身分証や登記事項証明書の提出は、金属盗対策法への対応と考えるのが自然です。

実際に、金属業者から一通の連絡が来た
どうも。廃棄物やリサイクルの実務に関わっている「廃棄さん」です。
先日、取引のある金属業者から連絡が届きました。
「今後の取引にあたり、身分証と登記事項証明書を提出してください」
最初に見たときは、正直「急に厳しくなったな」と思いました。ただ、近年の銅線盗難を考えると、方向としては当然だとも感じます。
今まで普通に取引していた会社からすれば、書類が増えるのは面倒です。買う側も確認や記録の仕事が増えます。それでも、盗まれた銅線がそのまま現金に換えられる状態を放置するよりはいい。今回の制度は、盗む側だけではなく、盗品が流れる出口を狭くする法律です。
2026年6月から買受業者に求められること
法律の正式名称は「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」です。長いため、この記事では金属盗対策法と呼びます。
2026年7月29日時点で「特定金属くず」に当たるのは、主として銅で構成される金属くずです(法律が定める特定金属は現時点で銅のみ。政令で追加され得ます)。製造工程から出る一部のくずや、古物営業法上の古物に当たる物は除外されます。
営業の届出には経過措置があり、施行前から営業している買受業者は2026年8月31日までに届け出る必要があります。
法人確認の方法として、登記事項証明書や印鑑登録証明書などが示されています。そのため、法人売主へ「登記簿を出してください」という連絡が来るわけです。
ただし、実際に求められる書類や提出方法は、買受業者ごとの運用で異なります。取引先への事前確認が必要です。
| 確認項目 | 買受業者に求められる主な対応 |
|---|---|
| 営業の届出 | 営業所ごとに都道府県公安委員会へ届け出る |
| 本人確認 | 売主の氏名・住所などを確認する |
| 法人取引 | 法人名・本店所在地と、実際に取引する担当者を確認する |
| 記録 | 本人確認記録と取引記録を作成する |
| 保存期間 | それぞれ3年間保存する |
| 不審な取引 | 盗品の疑いがあれば警察へ申告する |
なぜ、ここまで本人確認が必要になったのか
背景にあるのは、銅を中心とした金属盗です。
警察庁によると、2024年に太陽光発電施設で発生した金属ケーブル盗は7,054件。前年より1,693件増えました。2025年の金属盗全体は15,712件で、前年より減少したものの、依然として高い水準です。
狙われるのは太陽光発電所だけではありません。
万座温泉スキー場では2024年、リフトの銅線やモーターが盗まれました。5基中4基のリフトが動かせず、そのシーズンは14コース中12コースを営業できない事態になっています。
盗まれるのは数百万円分の金属でも、被害はそれだけでは終わりません。発電や鉄道、施設の営業が止まり、復旧工事と防犯対策にも費用がかかります。
金属そのものの被害 → 設備停止・営業停止 → 復旧工事・防犯設備 → 信用低下・利用者への影響
- 建設現場や解体現場の銅線
- 鉄道のレールボンドやケーブル
- 給湯器や室外機
- スポーツ施設の照明ケーブル
- グレーチングや鉄板
- 蛇口、水道メーター
- 寺社の銅板
銅が高くなれば、盗品も換金しやすくなる
銅価格の上昇には、太陽光、風力、EV、送配電網などで需要が増えていることや、鉱山開発に時間がかかること、主要鉱山の供給制約があります。国内の円建て価格には為替も影響します。
鉄やアルミも高くなっている現場感はあります。ただし、金属ごとに需給は違います。「全部が同じ金属バブル」とまとめるより、高値が盗難と新規参入の誘因になっていると見る方が実態に近いでしょう。
金属価格が高いこと自体が悪いわけではありません。問題は、盗品でも出所を聞かず買ってくれる出口が残っていることです。
「高く売れる物ほど、誰の物かを確認する」
今回の本人確認は、その当たり前を取引のルールにしたものです。
売る側は何を準備すればいい?
買受業者から連絡が来たら、まず次を確認します。
本人確認を求められると、「疑われているのか」と感じる人もいるかもしれません。しかし、適正な業者ほど取引の入口を確認する時代になった、と捉える方がよいと思います。
- 今回の売却物が本人確認の対象か
- 法人と担当者、それぞれ何の書類が必要か
- 原本提示か、写し・データ提出でよいか
- 書類の有効期限や発行日条件はあるか
- 担当者が法人を代理して取引できることを示す書類が必要か
- 金属の発生場所・入手経路を説明できるか
- 取引記録や計量票を自社側でも保管するか
放置自転車も、金属として売る前に確認する
以前、ある事業者が放置自転車を引き取り、金属業者へ渡したケースがありました。
その後、防犯登録から自転車の所在が分かり、警察の事情聴取を受けることになりました。事業者に盗む意図があったわけではありません。「もう使われていない自転車だろう」と考えて引き取っただけです。
ただ、店舗や敷地に置かれているからといって、すぐにその店舗の所有物になるわけではありません。盗難車の可能性もあります。
自転車を撤去・売却・廃棄する前に、少なくとも次を確認します。
金属としての値段を見る前に、そもそも誰の物なのかを確認する必要があります。
誰の物か → 廃棄物か・売却品か → 誰に、どの制度で渡すか
- 土地や施設の管理者は誰か
- 警察へ盗難届の照会をしたか
- 所有者への告知や保管期間を設けたか
- 防犯登録や車体番号を記録したか
- 処分できる状態になった根拠を残したか
「高く買う業者」と「適正な業者」は同じではない
排出事業者からすれば、金属は少しでも高く売れた方がよい。当然の判断です。
一方で、本人確認や記録、保管設備、防火・排水対策には費用がかかります。それを省いた業者ほど、一時的に高い価格を提示できることもあります。
だから、買取価格だけではなく、次も売却先を選ぶ材料になります。
書類を求める業者は面倒に見えます。でも、その面倒は、適正に取引している証拠の一つでもあります。
- 必要な許可・届出を説明できる
- 本人確認を省略しない
- 計量と価格の根拠が分かる
- ヤードの保管状態に不自然さがない
- 電池、油、液体、モーターなどを適切に分けている
- 売却後の再生先や輸出先を説明できる
- 不審な持込みを断る運用がある
金属を売る担当者が今やること
取引の前に、社内と売却先の確認事項を整理します。
- 取引先から届いた本人確認案内を社内で共有する
- 法人書類と担当者の本人確認書類を準備する
- 金属がどこで、どの工程から発生したか説明できるようにする
- 放置品や引取品は、所有権と盗難照会を先に確認する
- 買取価格だけでなく、届出・保管状態・再生先も確認する
金属を売る法人にも届出が必要ですか?
今回の届出義務は、対象となる特定金属くずを買い受ける営業者に対するものです。売主側には、買受業者が行う本人確認へ対応する必要があります。
鉄やアルミを売る場合も必ず同じ本人確認がありますか?
2026年7月29日時点の法律上の「特定金属くず」は主として銅で構成される物です。ただし、古物営業法、自治体条例、買受業者の社内基準によって確認を求められることがあります。
登記事項証明書は必ず原本ですか?
法律が示す確認方法と、業者が採用する提出方法は分けて考える必要があります。原本、写し、発行期限などは取引先へ確認してください。
スクラップヤード許可制も2026年6月に始まりましたか?
いいえ。改正法は成立・公布されていますが、ヤード許可制の具体的な施行日はまだ決まっていません。
免責
本記事は2026年7月29日時点の公開情報に基づく一般的な実務情報です。個別取引の適法性を判断するものではありません。実際の必要書類や手続は、取引先、都道府県警察、所管行政等の最新案内を確認してください。
一次情報・確認先
最終確認日:2026年7月30日個別案件の法的区分、許可の適合、受入可否、料金は地域と条件で異なります。所管行政、契約先、専門家へご確認ください。